DORAEMONS
第二話 戦士
A-part
<1>
「空気砲、発射」
彼は恐らく、この世界で最も強い男であった。
強さにも、色々な種類がある。暴力のみに限らず、権力、財力、その他全てを入れても、彼は誰にも負けないであろう。
彼の右腕に装着された銀の筒が、全てを葬り去るからだ。最強の暴力の前には、どんなものも通用しない。
彼は妙な出で立ちだった。年の頃は、碇シンジよりも少々上、高校生になろうかという年齢であるが、黄色のトレーナーに半ズボンと、彼に似つかわしくな
い、幼く見える服装をしていた。
彼は、倒れ伏すエヴァンゲリオンと、先程の光線に警戒している使徒を見比べた。
「弱いな……この程度に雑魚に負けるとはな」
呆れた口調で。
「まあ、こちらの方が余計な手間が省ける」
また光線を一発。二発。連撃。
仮面を貫かれた使徒は、くぐもった唸り声を上げて後退。そこにまた閃光。
反撃の暇すら与えない。彼は滝のような勢いで使徒に光線を浴びせる。
「そろそろ丸焼けかな?」
体中を焼き尽くされ、原型を留めなくなった頃――恐るべき怪物はそれ以上に恐ろしい男に葬られた。
「NERVの秘密兵器には……大恥をかいてもらおうか」
<2>
「使徒、殲滅……」
オペレーターの声にも覇気が無い。発令所全体が沈んだムードだった。
ゲンドウ以外のここにいる人間が、この状況に困惑するとともに、恐怖した。
「碇、あれは」
副指令、冬月が言った。
彼は碇ゲンドウの片腕として、彼が何をしてきたのか、今までなにをやってきたのかを知っている。だからこそ、『彼』の出現は冬月にとって恐怖だった。
「……問題ない。切り札は、まだこちらにある」
ゲンドウは、空のポケットを持つタヌキをちらりと見た。
記憶を操作しているとはいえ、『彼』の出現にはドラえもんも動揺しているようだった。
「D-tool『空気砲』……確かに、アレを使えば使徒など容易い、か」
本当に? 本当に道具の力だけなのか?
冬月は自問自答する。使徒のATフィールドを簡単に破るオーバーテクノロジーであるD-tool。
しかし、オーバーテクノロジーならばエヴァンゲリオンも同じ。いや、対使徒という観点から見ると、エヴァの方が勝っている筈なのだ。
D-toolを持っているとはいえ、『彼』は生身の人間。使徒の攻撃を一度でも受けたら、いや、攻撃などではなくとも、踏まれただけで簡単に死ぬだろ
う。
対するエヴァは、使徒と同じくATフィールドを持っている。少なくとも、守りに関してはエヴァに勝る兵器は無い。
ということは。
使い手の差、である。
歴戦の兵と、素人の中学生。最悪の場合、この素人を使って『彼』と戦うことになりかねない。
「……頭の痛い話だ」
冬月は、渋面でモニターを睨んだ。
こちらのカメラの位置を把握しているのか、カメラに目線を向け、明らかに挑発している『彼』の貌がとても凄惨なものに見えた。